『わたしが・棄てた・女』を読みました。

わたしが・棄てた・女読書感想文
森田ミツ

森田ミツ劇場 開幕

タイトル:わたしが・棄てた・女

作者:遠藤周作

出版社:講談社文庫

価格:534円(税別)

ページ数:286ページ

発行日:1983年5月

この本のあらすじ

わたしが・棄てた・女

森田ミツ

他人の苦しみに共感し手を差し伸べる女、森田ミツ。そのミツを弄び捨てた男、吉岡努。2人の視点を中心に出会い、別れ、その後の人生が語られます。

圧倒的にお人好しなミツは人を助けたりかばったりで自分のことは後回し。

そんなミツに吉岡は都合よく関わっちゃあ切り捨て、ちゃっかり就職した会社の社長の姪と恋仲になり順風満帆。

吉岡がよろしくやっている頃、ミツは思いもよらない病を宣告されドン底に突き落とされる。

時代は戦後ですが、内容は普遍的な人間の心情なので分かりにくいこともなく世界観にどっぷり浸れます。

外道とまでは言えない男、吉岡

吉岡は欲の発散のためだけに森田ミツに会い、その身体を抱き、そのくせ心の中ではミツをまるで汚いもののように嫌悪します。ミツはそんな吉岡の気持ちも知らずひたすら吉岡を慕い、彼に尽くそうとしました。

ミツがあまりに健気でどうしても「吉岡コノヤロー!」な気分になります。

吉岡は自分に非はないこと、誰でもやっていること、責任はないことを何度も言い訳のように繰り返します。それがまた読んでいてイライラするのです。

容姿が好みではなく底抜けにお人好しのミツは、彼にとってはただ要領の悪い生き方しか出来ない見下したくなる存在だったのでしょう。

反対に会社社長の姪である三浦マリ子には打算もあったとはいえ、好意を持ち大事にしています。冷たい男ではあるが、生理的な感情もあるし仕方がないことなのかも知れません。

ミツに対する情を感じる言葉もありました。

(馬鹿娘が。)ぼくは呟いた(馬鹿娘が。)

これはミツが働いている店のお金を盗んだと聞いた時の吉岡です。実際は身代わりになっただけでやっていないのですが、上手く生きられないミツに対するもどかしさを感じました。

外道とまでは言えないが、ゲス野郎ではあるといったところでしょうか。

(ねえ、君があの日、彼女と会わなかったら)

(あの娘も別の人生を——もっと倖せな平凡な人生を送っていたかもしれないな。)

落ちていくミツを知って吉岡の頭の中に聞こえた声。どうしようもないことだけど、もし別の優しい男性と出会えていたら…。そう思ってしまいます。

吉岡はミツを「聖女」だと言うのですが…いやお前が言うな。

ミツの救い

森田ミツ吉岡を忘れられないまま過ごしてきたミツは、他人をかばい望まない店で働かされます。必死で生きてきた彼女に今度は病気の疑いがかかりました。

病を告げられた後のミツの苦しみはとても痛々しいものでした。

惨めで孤独で…どうしようもない気持ち。優しいミツが初めて人の倖せを憎むほどの絶望だったのです。

その後彼女は、孤独だった人生からようやく故郷のような場所を見つけました。宗教との出会いもありますが、彼女を救ったのは宗教ではありません。

ミツの持ち前の優しさ、共感性がその場所を故郷に変えたのだと思います。

最後に

明るい内容ではありませんが、ただ不幸なだけでもありません。読み終わってしばらくはミツに思いをはせるほど、入り込んでしまいました。最後の方に思いがけない展開もあります。

遠藤周作は他に「海と毒薬」を読み、それもよかったですが、オススメはこちらです。

お時間のあるときにじっくりと読んでいただきたい1冊です。

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