彼、こよなく日本を愛す
タイトル:天野幻想 ラフカディオ・ハーン珠玉の絶唱
著者:小泉八雲(こいずみやくも)
出版社:集英社
価格:2200円(税別)
ページ数:299ページ
発行日:1994年7月10日発行
この本のあらすじ
この本は、小泉八雲のエッセイやおとぎ話などを集めたもので、バラエティに富んだ内容となっています。
「天の川縁起」では七夕について起源や祭、歌などについて。
「妖怪の歌」では「狂歌百物語」という妖怪の歌を集めた本の中から八雲が選んだものを紹介。
「日本からの手紙」では普通の日本人の暮らし、庶民の生活を愛情を持って語る。
この時期頭を悩ませる「蚊」という作品もあり、同じように蚊に苦慮していたのが分かりちょっと嬉しくなります。
小泉八雲は「怪談」しか読んだことはありませんでしたが、日本を愛し、日本人の暮らし、文化や伝承に深い知識を持った方だそうです。
また八雲の妻、セツが彼について語った「思ひ出の記」は、八雲の人柄がよくわかるとても楽しい話でした。
なんとも愛らしいご夫婦です。
他にもいろいろ収録されており、読み応えのある一冊です。
天の川縁起
七夕に特に興味はなかったのですが、「天の川縁起」を読むとその起源が中国であること、織姫と彦星の短歌が多く詠まれていたこと、昔の日本では七夕祭が盛んであったことなど興味深かったです。
「雑和集」という古い書物では、今伝わっている七夕伝説とは少し違う話でした。
二人は元々人間で、名前を夫は「遊子(ゆうし)」妻を「伯陽(はくよう)」といい、中国に住んでいたが、亡くなった後で神になったとあります。
二人があてがわれた場所が天の川を挟んでおり橋もなかった。
天帝が水浴びをするので普段は川を渡れないが、七月七日は天帝が出かける。
その時に鵲(かささぎ)と烏(からす)が現れ橋となり、伯陽が夫に会いに行くことができるそうです。
不便な話です…。
短歌が多く紹介されるなか、歌の心情が自分には分からないのでいろいろ想像してみました。
その中の一つ
この ゆうべ
ふりくる あめ は
ひこぼし の
はや こぐ ふね の
かひ の ちり か も
(この夕(ゆうへ)降り来る雨は彦星のはや漕ぐ舟の櫂の散りかも)
恋する気持ちは雨さえも喜びに変える
…的な、こういうことでしょうか?
思ひ出の記
小泉八雲の妻、セツが夫(「ヘルン」と呼ばれている)との思い出を慈しむように語っています。
それをセツの遠縁の三成重敬(みなりしげゆき)氏が筆記したものです。
優しくて正直者でお金に無頓着、嘘つきや弱いものいじめが嫌い。
静かな場所を好み騒がしいところは「地獄」と言って嫌がる。
おとぎ話では「浦島太郎」が一番好き。
奥様とお子様たちのために多くの我慢と心配をしてくれたそうで、素敵なお人柄が分かります。
奥様もきっと多くのご苦労があったでしょうが、お互い支えあい乗り越えてこられたのでしょうね。
ご夫婦の会話などは、読んでいるとこちらの頬も緩むくらい微笑ましいものでした。
新聞に載っていたある華族の隠居で、西洋嫌いの昔風好きの人がおり、ランプも一切つけないほど生活も徹底しているせいで、奉公人が嫌がって来ないという話をセツがすると八雲は面白がって大喜び、
「しかし、私大層好きです、そのやうな人、私の一番の友達、私見る好きです。その家、私是非見る好きです。私西洋くさくないです。」と云って大満足です。
「あなた西洋くさくないでせう。しかし、あなたの鼻」などゝ戯談申しますと
「あゝ、どうしよう、私のこの鼻、しかしよく思うて下さい。私この小泉八雲、日本人よりも、本当の日本を愛するです」などゝ申しました。
もう…かわいい!
小泉八雲を知らずに読んで、読み終わると小泉ご夫婦のファンになっているという一冊でした。
八雲が愛した日本は今どれくらい残っているのでしょうか。
渋谷のハロウィンを見たら卒倒してしまうかも。
七月七日は七夕、天の織姫と彦星に想いを馳せつつ、読んでみてはいかがでしょうか。
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