山に生きた男「森田」の壮絶な生き方
タイトル:狼は帰らず
著者:佐瀬稔(させみのる)
出版社:山と渓谷社
価格:971円(税別)
ページ数:308ページ
発行日:1997年12月1日発行(初版1980年12月1日)
この本のあらすじ
幼少期のコンプレックスから逃れるように山を目指した男が、山でも挫折を味わいながらもひたすらに攀(よ)じ登り続けた一代記。
幼い頃優しかった母を亡くし、中学校に通いながら住み込みで奉公に出され働き始める森田。
望まぬ奉公や親との確執、馴染めぬ世間から離れるように山へ没頭していく。
不器用でまっすぐな性格が誤解をうけ反発され、それでもそのひたむきさによき理解者も得ながらひたすら山に挑戦しつづけ…。
攀(よ)じ登らずにはいられない
存じ上げなかったのですが、「森田勝」というひとりの登山家を追った本です。
登山をしないので分からない用語が多く検索しつつ読み進めました。
彼の登山は登攀(とうはん)という険しい岩壁などをよじ登るスタイルのようです。
この本の前に「死者は還らず」「トムラウシ遭難はなぜ起こったか」という山の遭難事故の本を読んで山の恐ろしさや、亡くなられた方の様子や生還された方の思いなどを知りました。
世間とは馴染めない生活の中で山を知った森田は、社会人が多く集まる血気盛んな「緑山岳会」に入会しがむしゃらに登ります。
緑山岳会は「谷川岳」をホームとしており、調べると「谷川岳」は群馬にある山で、岩壁での遭難事故が多く別名「人喰い山」など呼ばれているそうです。
山に行くために働き、山に行くために仕事を辞める。
優秀な技術を持ちながらも定職にはつかず、稼いだお金は山につぎ込み常に金欠の森田。
世捨て人っていうんでしょうか。
ご本人も山への感情を抑えきれないというか抑える気もないというか、ただ山を制覇することしか考えられない…そんな生き方もあるのですね。
その人柄
まっすぐで嘘がない。
何事にも没頭する。
強いコンプレックスがある。
相手を怒らせることを言うが全く悪気はない。
本を読むと森田さんの人柄はこんな感じでしょうか。
特に人柄を感じるエピソードが。
仲間たちが、ザイルパートナーが転落したら自分が助かるためにザイルを切るか話していたとき、
「オレはザイルを切るよ。引きずり込まれるのは嫌だからな。だから、いつもポケットにナイフをしまってあるんだ」
ー狼は帰らずー
ザイルとは登山用のロープで、同行しているパートナーとザイルで結んで滑落に備えるようです。
山に登るためには死ぬわけにはいかない。
だからザイルを切るとためらいもなく本音を言う。
あまりに強い思いと覚悟に、周囲は引いてしまうこともしばしばあったようです。
他にも、のちに結婚される恋人の律子さんへの手紙が、彼女や山への思いを静かに綴られており、森田さんの別の一面がみられます。
最後に
プロのガイド協会に入り、結婚もし子供もできた。
年を重ねて気力体力も衰えてくる。
若い頃は攻めの姿勢でいてもいずれ守りに変わる。
それが普通ですが、森田さんは結局最後まで挑戦をやめなかった。
そんな人生をこの本を通して少しのぞかせてもらいました。
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