百間先生から愛猫へのラブレター
タイトル:ノラや
著者:内田百間(うちだひゃっけん)
出版社:中央公論社(中公文庫)
価格:796円(税込)
ページ数:321ページ
発行日:2010年11月30日発行(初版1980年3月10日)
この本のあらすじ
ある日家の庭にやってきた一匹の子猫。
世話をするうちに自然と飼うことになり、名前を「ノラ」と名付けた。
可愛がってきたノラが、ある日帰ってこなくなった。
妻や知り合いを含め必至に探す日々。
そうだ、新聞の案内広告に猫探しの広告をだそう。
そうだ、新聞配達店に折り込み広告を入れてもらおう。
そうだ、警察署に捜索願を出そう。
無事ノラが帰ってきたときのために、お礼状の挨拶と、お祝いを兼ねたノラからの案内状も作ろう。
また帰れなくなったら困るから、鈴付きの首輪を用意しよう。
早く帰っておいで、ノラや。
猫好きの心震わせる
月刊誌「小説新潮」の連載で、ノラ、ノラ失踪後に訪れた猫クルッとの交流と騒動がかかれています。
居なくなったノラを想い、先生は毎日泣き暮れています。
あまり眠れない…食欲もない…風呂も入らず顔も二十日間洗ってない。
ノラが可愛くて可哀想で堪らない。
淋しいから知り合いに家に来てもらったりするが、やはりノラを思い出しては泣いてしまう先生。
広告を見た人達から似た猫が庭にいる、亡くなっていて埋めた猫が似ていたなど、親切な情報が入っては、現場に行き確認する日々(主に奥様が)。
嫌がらせや脅迫めいたもの、何が目的か分からないような電話もあり、疲労もたまっていく。
どんどん日にちが過ぎていく。
もう読んでいるこちらが胸が苦しくなるようです。
ノラちゃん、帰ってきて。
せめて無事だけでも知りたいと、祈るような気持ちでページをめくります。
旧仮名遣いですが、そこはなんとなく読めます。
同じ説明が何度か出てきますが、これは連載をまとめた本だからだと思います。
「いい子だ、いい子だ、ノラちゃんは」
必死にノラを探したり、喧嘩で怪我したクルッを心配したり、二匹に翻弄される先生ですが、失礼ながら愛嬌があってユーモアもあるので、微笑ましく読めたりもします。
猫愛ダダ漏れの一冊ですが、特に印象に残っているのが
家内がお勝手でノラを抱いて、「いい子だ、いい子だ、ノラちゃんは」と歌ふ様に云ひながらそこいらを歩き廻ると、ノラは全く合点の行かぬ顔をして抱かれてゐた。
その様子の可愛さ。思ひ出せば矢張り堪らない。
ー内田百間 ノラやー
その光景が目に浮かぶようです。
本当に可愛かったんだろうな。
最後に
猫好きには有名な作品です。
ものすごく共感しながら読みました。
ご夫婦がどれほどノラやクルッを可愛がっておられたか。
ところで、表紙はロシアンブルーのような子猫の写真なのですが、これはなぜなのだろう。
ノラちゃんの写真はありませんが、内容から「虎ブチに白」とあります。
クルッちゃんはノラちゃんに似ているから、同じような模様だろうし。
表紙の子ももちろんかわいいけど、なんで?
猫の本は他に、ポール・ギャリコの「猫語の教科書」が猫目線で人との暮らし方を語っていて面白いです。
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